井津由美子 『Saul Leiter: In Stillness』
5ea1012c72b9112a1caee81d 5ea1012c72b9112a1caee81d 5ea1012c72b9112a1caee81d 5ea1012c72b9112a1caee81d 5ea1012c72b9112a1caee81d 5ea1012c72b9112a1caee81d

井津由美子 『Saul Leiter: In Stillness』

4,950 JPY

About shipping cost

井津由美子 『Saul Leiter: In Stillness』 発行:リブロアルテ サイズ:300×220㎜ ページ数:120ページ 上製本 ーーーーーーー ソール・ライターに初めて私が出会ったのは、ニューヨークのハワード・グリーンバーグギャラリーのキッチンだった。ソールからアパートメントに遊びにきたらどうかと誘われた私は、彼の作品に強く惹かれていたこともあり、招待に快く応じた。ソール・ライターの魅惑的で創造性に満ちた場所に、この後何度も訪れることになるとは、その時の私にはまだ知る由もなかった。 ソールのイーストヴィレッジのアトリエ兼アパートメントを訪れる度に、楽しくインスピレーションに溢れる時間を彼と一緒に過ごした。私たちは、アートプロジェクトや昨今に起きた様々な事件、古い浮世絵のこと、猫のことなどを語り合った。笑みをたたえたやさしい眼差し、ウイットに富んだ会話、コーヒーの香り、部屋には物があふれていて、そこに空からの光が降り注いでいた様子を思い出す。長い時の流れが、背の高い北向きの窓に、ひび割れた石膏の壁のひだに、うず高く積まれた絵とコラージュ間に、ひっそりと染み込んでいるようだった。 ソール・ライターは、1952年に東10丁目に移り住んで以来、人生のパートナーで画家でもあったソームズ・バントリーと、半世紀近い時間をこのアパートメントで一緒に過ごした。2013年の11月26日に、享年89歳で馴れ親しんだこの場所から安らかに旅立った。ソールが亡くなった3週間後に、彼の相続人であるマーギット・アーブからの許可を得た私は、ソール・ライターが同じ建物内に所有していた2つのアパートメント4号室、15号室を撮影した。すべてはソールが生きていた頃と何ひとつ変わらない様子で、生前の状態のままに保たれていた。そこには深い静寂に満ちていたが、ふとした瞬間にソールの気配を感じることがあった。窓辺に置かれたペインティングの道具、棚の中のカメラ、椅子に掛けられた帽子やマフラーは、主人が戻って来て使われるのを待っているかのようだった。ソールが旅立った数ヶ月後にアパートメント4号室はなくなり、今日では15号室がソール・ライター財団事務所として残っている。 それから5年後の2018年から2019年にかけて、ソールの残した遺品を、ソール・ライター財団の全面的な協力を得て再び撮影することになった。写真家であり画家であり詩人でもあったソールは、膨大な数のものを残した。カメラとプリントとスライドと未現像フィルム。油絵と水彩画とスケッチブック。時計と手紙と詩。書物とユダヤ聖典。日本製の藁のブラシと鍵。ソール・ライターが生前に愛したものたちは、彼のアーティストとしての私的な人生を教えてくれる。ソームズへの敬愛を、両親への悲哀を、妹への苦悩を、密やかに暗示する。 『Saul Leiter: In Stillness』はイーストヴィレッジにある彼の仕事場や住居空間や中庭、彼が愛おしみ大事にしてきた遺品を通して、ソール・ライターの人生を辿るプロジェクトだ。ソールは煉瓦造りの建物が並ぶ数ブロックの狭いエリアで、彼の周りに存在するたくさんの美しいものを見出した。「神秘的なことは、身近な場所で起きる」という彼の言葉をそのまま体現するかのように。この作品を通して、謎が多いソール・ライターの人生に、新たな光を当てることができれば幸いだ。 井津由美子 ーーーーーー 井津由美子 1968年大阪府生まれ。ニューヨーク在住。 1998年アメリカ、カリフォルニア州のブルックス大学写真学科を卒業後、ニューヨークで広告写真から写真家のキャリアをスタート。2003年より8x10インチと11x14インチの大型カメラでプラチナ・パラディウムプリント技法による<Secret Garden>シリーズを制作開始。2016年、<Secret Garden>と<Faraway>を収録した写真集『Resonance』をSerindia Contemporaryより出版。2017年から2018年にかけて、微細な鳥の巣と羽根の抽象的イメージで成り立つ<Icarus>シリーズを東京、台北、バンコク、サンタフェ、パリのギャラリーで発表。2020年1月に東京のBunkamuraザ・ミュージアムで開催された「永遠のソール・ライター」展において上映されたプロジェクションに作品を提供。『Saul Leiter: In Stillness』を東京、京都で発表予定。2007年にニューヨーク州ウッドストックのセンター・フォー・フォトグラフィー奨学金受賞、サミュエル・ドースキー美術館に作品が収蔵される。